THE ATLAS OF DYING WORDS

ことばの星図

この星空に浮かぶ 7,164 の光は、いま地球上で話されている言語のすべて。
およそ40日にひとつ、どこかの星が静かに消えていく。

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01 — 世界のことば

世界には、いくつの
言語があるのか

7,164LANGUAGES

現在話されている言語の数(Ethnologue, 2024)

正確に数えることは、実は誰にもできない。どこまでが「ひとつの言語」なのかという線引きが難しいからだ。それでも言語学の代表的なカタログ Ethnologue は、世界の言語をおよそ7,000あまりと数えている。

ただし、その分布は極端に偏っている。英語や中国語、ヒンディー語といった巨大な言語がある一方で、話者が数十人しかいない言語が何千とある。

23言語だけで世界人口の半分以上をカバー 残り約7,141言語

話者数の中央値は数千人ほど。世界の言語の約4割にあたる3,000あまりの言語が、すでに消滅の危機にあるとされる。

02 — 誕生

言語は、どうやって
生まれるのか

言語は発明されるのではなく、ほとんどの場合「分かれて」生まれる。ひとつの言語を話す集団が地理や政治によって隔てられると、それぞれの話し方が少しずつずれていき、数百年のちには互いに通じない別の言語になる。ラテン語がフランス語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・ルーマニア語へと枝分かれしたのが、その最も有名な例だ。

もうひとつの生まれ方が「接触」だ。共通の言語を持たない人々が交易や労働の現場で出会うと、間に合わせの混成語(ピジン)が生まれる。それを子どもたちが母語として受け継いだとき、ピジンは完全な文法を持つ新しい言語——クレオール——になる。パプアニューギニアのトク・ピシンや、ハイチ・クレオール語がそうして生まれた。

まったくゼロから言語が生まれる瞬間を、人類は一度だけ目撃している。1980年代のニカラグアで、ろう学校に集められた子どもたちが、誰に教わることもなく独自の手話——ニカラグア手話——を自然発生させた。言語をつくる力は、人間に生まれつき備わっている。

03 — 消滅

言語は、どうやって
死んでいくのか

約9言語 / 年

消滅していく言語のペース。およそ40日にひとつ(Ethnologue の試算)

言語は突然死なない。多くの場合、親が子どもに「その言葉では損をする」と考え、学校や仕事で有利な大言語だけを教えるようになる——世代間の伝達が切れた瞬間から、言語はゆっくりと死にはじめる。話せるのは高齢者だけになり、やがて最後の話者がひとり残される。

2008年、アラスカのエヤック語は最後の話者マリー・スミス・ジョーンズの死とともに消えた。2022年には、南米最南端のヤガーン語の最後の母語話者クリスティーナ・カルデロンが亡くなった。ひとつの言語が消えるとき、そこに畳み込まれていた神話も、地名の由来も、その土地でしか通用しない世界の切り取り方も、一緒に失われる。

安全すべての世代が話し、子どもへ受け継がれている
脆弱子どもは話すが、家庭内などに限られはじめる
危険子どもが家庭で母語として学ばなくなる
重大な危険話すのは祖父母の世代だけになる
極めて深刻最も若い話者が高齢者で、その人たちも断片的にしか話せない
消滅話者が誰もいなくなる

UNESCOによる言語の危機度の6段階。このまま何もしなければ、今世紀末までに現存する言語の50〜90%が消滅するという予測もある。

04 — 境界線

方言と言語は、
なにが違うのか

言語とは、陸軍と海軍を持った方言である。
— 言語学者マックス・ヴァインライヒの講演で紹介された言葉

言語学に、方言と言語を分ける客観的な基準はない。よく使われる目安は「互いに通じるかどうか」だが、現実の線引きはほとんど政治と歴史で決まっている。

通じないのに「同じ言語」

中国語の北京語と広東語は、会話ではほぼ通じ合えない。それでも同じ文字と国家を共有するため、どちらも「中国語の方言」と呼ばれる。

通じるのに「別の言語」

スウェーデン語・ノルウェー語・デンマーク語の話者は、それぞれ母語のままでもある程度会話できる。それでも別の国家に属するため、3つの「言語」とされる。

日本も例外ではない。UNESCOは2009年、日本国内の8つの言葉——アイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語——を消滅の危機にある「言語」として掲載した。国内では「方言」と呼ばれてきた琉球の言葉たちは、言語学的には日本語と系統を同じくする独立した言語群とみなされている。

オレンジ色は「極めて深刻」または「重大な危険」とされたもの。アイヌ語の母語話者は、すでに数えるほどしか残っていない。

05 — 再点火

消えた星が、
ふたたび灯ることもある

言語の死は、かならずしも不可逆ではない。記録が残り、話したいと願う人がいれば、言語は蘇る。

ヘブライ語 約2000年間、日常語としては死んでいた祈りの言葉。19世紀末からの復興運動により、現在は900万人が話す国家語になった。言語復活の最大の成功例。
ハワイ語 一時は母語とする子どもがほぼゼロに。1980年代に始まった「プーナナ・レオ」という言語の巣(イマージョン保育園)から、ハワイ語で育つ世代が戻ってきた。
マオリ語 ニュージーランドで同様の「コハンガ・レオ」運動が先行例をつくった。いまでは国営放送や公教育の中に生きている。
マン島語 1974年に最後の母語話者が死去し、一度は「消滅」と記録された。その後の復興運動で、いまは母語として育つ子どもが再び存在する。
アイヌ語 ラジオ講座、ウポポイ(民族共生象徴空間)、若い世代のアーティストたち。話者コミュニティを再びつくる挑戦が続いている。

06 — 声の星図

「ありがとう」を、
世界じゅうの声で

同じひとことを、の言語で。星に触れると、いまお使いの端末に入っている合成音声がその言葉を読み上げる。

声のない星もある。その言語を話せる機械が、まだこの世に存在しないからだ。話し手が数千万人いても、声を持てない星がある。

声のある星 声のない星(合成音声が存在しない) 消えた星
星に触れてください

すべての言語を、地域や話し手の数で並べて見る → 1日ふたつ、言語を深く読む「ことばの図鑑」 → 文字・文法・言語のなりたちを読む「ことばのはなし」 →

日本列島のことば

方言と、UNESCOが「言語」として危機にあると記した琉球諸語・アイヌ語。 合成音声は日本語(標準語)のものしかないため、かなを読ませた近似の声になる。本来の発音は、この星図の中にはない。

07 — 今日のことば

毎日ひとつ、
星を選んで

この星図は、日付が変わるたびに別の星をひとつ選ぶ。今日は、この言葉。

日本時間の0時に入れ替わります。明日また、別の星が灯ります。