01 — 世界のことば
世界には、いくつの
言語があるのか
現在話されている言語の数(Ethnologue, 2024)
正確に数えることは、実は誰にもできない。どこまでが「ひとつの言語」なのかという線引きが難しいからだ。それでも言語学の代表的なカタログ Ethnologue は、世界の言語をおよそ7,000あまりと数えている。
ただし、その分布は極端に偏っている。英語や中国語、ヒンディー語といった巨大な言語がある一方で、話者が数十人しかいない言語が何千とある。
話者数の中央値は数千人ほど。世界の言語の約4割にあたる3,000あまりの言語が、すでに消滅の危機にあるとされる。
02 — 誕生
言語は、どうやって
生まれるのか
言語は発明されるのではなく、ほとんどの場合「分かれて」生まれる。ひとつの言語を話す集団が地理や政治によって隔てられると、それぞれの話し方が少しずつずれていき、数百年のちには互いに通じない別の言語になる。ラテン語がフランス語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・ルーマニア語へと枝分かれしたのが、その最も有名な例だ。
もうひとつの生まれ方が「接触」だ。共通の言語を持たない人々が交易や労働の現場で出会うと、間に合わせの混成語(ピジン)が生まれる。それを子どもたちが母語として受け継いだとき、ピジンは完全な文法を持つ新しい言語——クレオール——になる。パプアニューギニアのトク・ピシンや、ハイチ・クレオール語がそうして生まれた。
まったくゼロから言語が生まれる瞬間を、人類は一度だけ目撃している。1980年代のニカラグアで、ろう学校に集められた子どもたちが、誰に教わることもなく独自の手話——ニカラグア手話——を自然発生させた。言語をつくる力は、人間に生まれつき備わっている。
03 — 消滅
言語は、どうやって
死んでいくのか
消滅していく言語のペース。およそ40日にひとつ(Ethnologue の試算)
言語は突然死なない。多くの場合、親が子どもに「その言葉では損をする」と考え、学校や仕事で有利な大言語だけを教えるようになる——世代間の伝達が切れた瞬間から、言語はゆっくりと死にはじめる。話せるのは高齢者だけになり、やがて最後の話者がひとり残される。
2008年、アラスカのエヤック語は最後の話者マリー・スミス・ジョーンズの死とともに消えた。2022年には、南米最南端のヤガーン語の最後の母語話者クリスティーナ・カルデロンが亡くなった。ひとつの言語が消えるとき、そこに畳み込まれていた神話も、地名の由来も、その土地でしか通用しない世界の切り取り方も、一緒に失われる。
UNESCOによる言語の危機度の6段階。このまま何もしなければ、今世紀末までに現存する言語の50〜90%が消滅するという予測もある。
04 — 境界線
方言と言語は、
なにが違うのか
言語とは、陸軍と海軍を持った方言である。
言語学に、方言と言語を分ける客観的な基準はない。よく使われる目安は「互いに通じるかどうか」だが、現実の線引きはほとんど政治と歴史で決まっている。
通じないのに「同じ言語」
中国語の北京語と広東語は、会話ではほぼ通じ合えない。それでも同じ文字と国家を共有するため、どちらも「中国語の方言」と呼ばれる。
通じるのに「別の言語」
スウェーデン語・ノルウェー語・デンマーク語の話者は、それぞれ母語のままでもある程度会話できる。それでも別の国家に属するため、3つの「言語」とされる。
日本も例外ではない。UNESCOは2009年、日本国内の8つの言葉——アイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語——を消滅の危機にある「言語」として掲載した。国内では「方言」と呼ばれてきた琉球の言葉たちは、言語学的には日本語と系統を同じくする独立した言語群とみなされている。
オレンジ色は「極めて深刻」または「重大な危険」とされたもの。アイヌ語の母語話者は、すでに数えるほどしか残っていない。
05 — 再点火
消えた星が、
ふたたび灯ることもある
言語の死は、かならずしも不可逆ではない。記録が残り、話したいと願う人がいれば、言語は蘇る。
06 — 声の星図
「ありがとう」を、
世界じゅうの声で
同じひとことを、の言語で。星に触れると、いまお使いの端末に入っている合成音声がその言葉を読み上げる。
声のない星もある。その言語を話せる機械が、まだこの世に存在しないからだ。話し手が数千万人いても、声を持てない星がある。
すべての言語を、地域や話し手の数で並べて見る → 1日ふたつ、言語を深く読む「ことばの図鑑」 → 文字・文法・言語のなりたちを読む「ことばのはなし」 →
日本列島のことば
方言と、UNESCOが「言語」として危機にあると記した琉球諸語・アイヌ語。 合成音声は日本語(標準語)のものしかないため、かなを読ませた近似の声になる。本来の発音は、この星図の中にはない。
07 — 今日のことば
毎日ひとつ、
星を選んで
この星図は、日付が変わるたびに別の星をひとつ選ぶ。今日は、この言葉。
日本時間の0時に入れ替わります。明日また、別の星が灯ります。